ONCE ダブリンの街角で

「ONCE ダブリンの街角で」について…

映画「ONCE ダブリンの街角で」は、2007年に公開されたアイルランド映画です。アイルランドの首都ダブリンを舞台に、ストリートで出会った地元の男とチェコ系移民の女が音楽を通して心を通わせていくラブストーリーです。全米では2館からの公開でしたが、その後サンダンス映画祭などで注目されたことをきっかけに口コミで話題になり、140館まで劇場数を増やしました。サウンドトラックは全米チャートで2位を記録し、日本でもその独特なダブリンの雰囲気と心に染みる音楽が人気となった映画です。

ストーリー

昼間は父親の経営する掃除機修理の店を手伝い、夜はダブリンの片隅でボロボロのギターを弾くストリートミュージシャンの男。いつものように街角で自作の曲を演奏していると、ある女性が声をかけてきます。彼女はチェコからの移民で、花売りをしながら生活をしているのだと言います。そして、男が掃除機の修理をしていると知り、翌日自分の家の壊れた掃除機を持って再び彼の元に現れます。男の家へ向かう途中、彼女はある楽器店に寄ります。貧しい生活をしている彼女の唯一の楽しみは、ここでピアノを弾くことだったのです。彼女は男にギターの演奏をせがみます。彼が演奏する歌にあわせて、彼女は即興でピアノ伴奏をつけていきます。二人のセッションは初めてとは思えないほど絶妙で、息もぴったりあいました。彼は彼女の才能にほれ込み、二人は音楽を通して心を通わせていきます。彼は彼女に、ロンドンに渡ってデビューするのが夢だと話します。彼女のために曲を書き、その作詞をお願いしたりして、二人の距離は段々と縮んでいくように思われました。あるとき、彼女は彼を自宅に招待します。喜び勇んで向かった家には、英語をほとんど話せない彼女の母親と、幼い娘がいました。彼女はシングルマザーだったのです。驚く彼でしたが、そんな彼女の一面も段々と受け入れていき、そんな彼の姿に、彼女も心を開いていきます。彼らはデビューの夢を叶えるために、デモCDを作ることを決めます。彼と同じようにストリートで演奏してるミュージシャンをスカウトし、スタジオを借りてレコーディングに臨みます。レコーディングスタジオのエンジニアは、レコーディング経験の無い彼らの様子にうんざりしながらやり方を教えますが、彼らのセッションが始まると段々と彼らの音楽に惹きこまれていくのでした。お金の無い彼らは一日しかスタジオを借りることが出来ないため、徹夜で歌い演奏します。明け方、やっとのことで出来上がったデモCD。コピーが出来るのを待ちながら、男は女に「君のオリジナル曲を聞かせて」と頼みます。彼女はしぶしぶながら演奏をはじめますが、途中で泣き崩れてしまいます。その曲は、チェコにおいてきた元夫のことを思って作った曲で、彼のことを忘れられないのだと男に告白するのでした。それでも彼は諦めず、出来上がったデモCDを持ち「一緒にロンドンに行こう」と女を誘います。しかし彼女は首を縦に振りませんでした。男は一人、ロンドンへと旅立っていくのでした。

キャスト

  • グレン・ハンサード・・・男
  • マルケタ・イルグロヴァ・・・女
  • ヒュー・ウォルシュ・・・ドラマー
  • ゲリー・ヘンドリック・・・リードギタリスト
  • アラスター・フォーリー・・・ベーシスト
  • ゲオフ・ミノゲ・・・エイモン
  • ビル・ホドネット・・・男の父親
  • ダヌシュ・クトレストヴァ・・・女の母親
  • ダレン・ヒーリー・・・ヘロイン中毒者
  • マル・ワイト・・・ビル
  • マルチェラ・プランケット・・・昔の女
  • ニーアル・クリアリー・・・ボブ

スタッフ

  • 監督・・・ジョン・カーニー
  • 製作・・・マルティナ・ニーランド
  • 製作総指揮・・・デヴィッド・コリンズ
  • 脚本・・・ジョン・カーニー
  • 撮影・・・ティム・フレミング
  • プロダクションデザイン・・・タマラ・コンボイ
  • 衣装デザイン・・・ティツィアーナ・コルヴィシエリ
  • 編集・・・ポール・ミューレン
  • 製作会社・・・サミット・エンターテインメント
  • 配給・・・アイルランド:ブエナビスタ、アメリカ:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ、日本:ショウゲート

製作

この映画は製作費13万ユーロ(日本円で約1500万円)という超低予算で作られた映画です。脚本はわずか60ページ、撮影はたったの17日間というハードなスケジュールで製作されました。主役を務めたグレン・ハンサードは、アイルランドで人気のバンド「ザ・フレイムス」のフロントマンとして活躍している人物です。ダブリンを舞台にした音楽映画といえば「ザ・コミットメンツ」ですが、グレンはこの「ザ・コミットメンツ」にもギタリスト役として出演しています。また、監督・脚本を担当したジョン・カーニーは「ザ・フレイムス」の初代メンバーで、ベーシストだったのだそうです。「ザ・フレイムス」はこれまで6枚のアルバムを発表しているベテランバンドで、2007年にはボブ・ディランのオセアニア・ツアーに参加するなどして、U2やエンヤなどと並ぶアイルランド音楽の代表格として活躍が期待されているバンドです。ミュージカル映画ながら、ハリウッドのそれとは違い派手さもなく坦々と進むこの映画が、なぜこんなにも評価されたのかというと、やはり「ザ・フレイムス」で培われた彼らの音楽性によるところが大きいと思います。また、グレンと共に主役として出演したマルケタ・イルグロヴァは、グレンがプラハのツアー中に出会い、自身のソロ・アルバムでも共作・共演している人物ということで、その才能はお墨付きです。映画公開当初は10代だったマルケタと40代のグレンは、映画撮影後もデュオを組んで活動し、交際もしています。映画内では上手くいきませんでしたが、二人には幸せになって欲しいと思います。

受賞歴

  • アカデミー賞 歌曲賞「Falling Slowly」
  • サンダンス映画祭 ワールドシネマ部門 観客賞
  • ダブリン国際映画祭 観客賞
  • ロサンゼルス映画批評家協会賞 音楽賞「Falling Slowly」
  • シカゴ映画批評家協会賞 音楽賞
  • 放送映画批評家協会賞 歌曲賞「Falling Slowly」
  • インディペンデント・スピリット賞 外国語映画賞
  • 映画館大賞 「映画館スタッフが選ぶ、2008年に最もスクリーンで輝いた映画」第91位

キャッチコピー

  • ふたりをつなぐ、愛より強いメロディ
  • 人生でたった一度、心が通じる相手に出会えたら・・・ストリートから始まるラブストーリー

感想

ストーリー自体は至ってシンプルなボーイ・ミーツ・ガールものです。低予算だからか、カメラはほとんど手持ちで学生が撮っているかのようなブレ具合。美しい映像がある訳でも、有名俳優が出ているわけでもない。ですが、それを補って余りあるほど音楽が素晴らしい映画です。これをミュージカル映画と言っていいのか分かりませんが、「音楽」がメインの映画であることは間違いありません。主人公の二人には名前もなく、セリフも必要最低限と言った感じなのですが、彼らの音楽が彼らの気持ちを痛いほど伝えてくれます。とても静かに坦々と物語が進み、すーっと耳に入ってくる音楽がとても心地よい映画です。夢を諦めない!とか、彼女と別れたくない!といった熱い気持ちが全面に溢れている映画とは違って、そういう気持ちがなんとなくじわじわと伝わってきます。そしていつの間にか二人に感情移入してしまうのです。私がとくに好きなシーンは、CDプレイヤーの電池が切れていて、夜中に彼女がひとりで買いに行くシーンです。パジャマに上着を羽織って彼女は歩いていきます。お店で電池を買い、CDの彼の声を聞きながら夜道を歩き、自分も彼の声に合わせて歌いだします。このシーンは夜のダブリンの街と、彼女の歌声が相まってとても素敵です。また、スタジオでレコーディングが終わったあとに、皆でフリスビーをするシーンもとても良いです。彼らの仲間になって一緒にレコーディングの成功をお祝いしたい気持ちになります。私はこの映画のサウンドトラックCDも買ったのですが、やはり劇中でストーリーの流れの中で聴く曲たちのほうが、キラキラしている気がします。全体を通して静かに包み込まれるような雰囲気の映画ですので、観終わったあとには不思議と温かな気持ちになれると思います。秋の夜長にしっとりとした気持ちで観たい映画です。